「ファイルの中身に依存しつつそのファイル自体を更新する」コマンドラインツールはビルドシステムと相性が悪い

関数型プログラミングのメリットについて語られることはあっても,「ファイルの中身に依存しつつそのファイル自体を更新する」コマンドラインツールがビルドシステムと相性が悪い,みたいな話をする人はあんまりいないようなので書いてみた.

Windows には signtool.exe というデジタル署名ツールがある.実行ファイル myapp.exeに署名したい場合は以下のようにする.

signtool sign /a myapp.exe

十分にシンプルなように見える.が,典型的なビルドシステムはこの処理がお気に召さない.試しに Chromium や node.js で使われているメタビルドシステムである Gyp で書いてみる.

{
  'targets': [
    {
      'target_name': 'myapp',
      'type': 'executable',
      'sources': [
        'main.cc',
      ],
    },
    {
      'target_name': 'sign',
      'type': 'none',
      'dependencies': [
        'myapp',
      ],
      'actions': [
        {
          'action_name': 'run_signtool',
          'inputs': [
            '<(PRODUCT_DIR)/myapp.exe',
          ],
          'outputs': [
            '<(PRODUCT_DIR)/myapp.exe',
          ],
          'action': ['signtool', 'sign', '/a', '<(PRODUCT_DIR)/myapp.exe'],
          'msvs_cygwin_shell': 0,
        },
      ],
    },
  ],
}

この Gyp ファイルから生成された Ninja 用ビルドファイルは,以下のようにビルド時にエラーとなる.

C:\work\dag>ninja -C out/Default sign
ninja: warning: multiple rules generate myapp.exe. builds involving this target will not be correct; continuing anyway
ninja: Entering directory `out/Default'
ninja: error: dependency cycle: myapp.exe -> myapp.exe

myapp.exe をビルドするのに myapp.exe が必要なのはけしからん,とのこと.
私の場合,ラッパースクリプトを書いて署名前後でファイルパスの一部が変わるようにして回避することが多い.
例1.

mysigntool --input=myapp.exe --output=myapp.signed.exe

例2.

mysigntool --input=unsigned/myapp.exe --output=signed/myapp.exe

デジタル署名に限らず,mt.exe を利用したマニフェストファイルの埋め込み,rebase.exe を利用した事前バインド,Profile Guided Optimization (PGO) などで,うっかり入力ファイルと出力ファイルを同一パスにすると同様の問題に直面する.

なんでこんな話を書く気になったかというと,暇つぶしに Gyp にパッチを書いていて突然気付いたからである.
https://codereview.chromium.org/82703007#msg3
Directed Acyclic Graph (DAG; 無閉路有向グラフ) を事前に構築できることを前提としているシステムというのは,ビルドシステムにしろ MapReduce にしろ,案外日常的にお世話になっている.そういうシステムで「ちょっとした処理」を行うとして,なんだかうまく書けないなぁという処理,実はそれ入力と出力に循環があったりしませんか,というまあただそれだけの話.
こうやって考えてみると,世間のビルドシステムというのはファイルシステムと割とべったりくっついているということに気付かされる.

まとめ

入力パス名と出力パス名が同じになる操作は,一般的にビルドシステムと相性が悪い.典型的なビルドシステムでは,ファイルの内容ではなくパス名だけを用いて依存関係を記述する必要があることに注意.

Windows の IME を変換エンジンとして使う

f:id:NyaRuRu:20131218051110p:plain
プロセス分離型の IME の開発に携わった以上,一度は試してみたいと思っていた奴,の基礎実証実験っぽいのをやってみた.Windows向け IME を (とくに個人規模で) 作っている人にはもしかしたら役に立つかも.

テーマ

メインテーマは,Windows で IME を実装するとして,バックグラウンドで別 IME を有効化し,その IME に対してクエリを投げ,返ってきた結果を利用するための技術的な枠組みについて.ここではプロセスモデル的に Windows で可能かどうかという点のみを考える.

大まかな流れ

今回試した手法では,Windows 8 で TSF に追加された ITfFnSearchCandidateProvider という仕組みを活用する.このインターフェイスは,複雑なことはできない反面,1) 文字列を投げて文字列のリストが返ってくるというシンプルな仕組みである,2) ステートを持たず,IME でユーザーが入力中かどうかに関わらず自由に使える,という点で大変使いやすい.ただしすべての IME が実装しているわけではない.これについては後述.
また,このインターフェイスには "Windows 8 [desktop apps only]" と注釈がついている.ここで,プロセス分離型の IME 実装を前提とするのが生きてくる.プロセス分離型の実装では,好きにデスクトッププロセスと連携できるのでこれは特に問題にはならない.

具体的な流れ

以下の手順で,キーボードフォーカスを持たないバックグラウンドプロセス内で,ITfFnSearchCandidateProvider をサポートした IME を変換エンジンとして使用できる.

  1. バックグラウンドスレッドを作る
  2. スレッド内で COM を初期化する (STA 推奨)
  3. ITfInputProcessorProfileMgr.ActivateProfile を使用して,使用したい IME を有効化する.
  4. ITfThreadMgr2.ActivateEx を呼んで IME に初期化処理を行わせる.
  5. ITfThreadMgr2.GetFunctionProvider に,対象 IME の CLSID を渡して ITfFunctionProvider を取得
  6. GetFunctionProvider.GetFunction 経由で ITfFnSearchCandidateProvider を取得
  7. ITfFnSearchCandidateProvider.GetSearchCandidates で任意のクエリを行う

罠ポイント

上記手順の 3 が問題. Windows 8 以降はデスクトッププロセス間で IME 関係の設定を共有するようになったため,うかつに別 IME を選択すると他スレッド/他プロセスにも影響が及んでしまう.これについては, API を使って一時的にこの挙動に関する設定そのものを変更することで回避できそう.具体的には,SystemParametersInfo API に SPI_GETTHREADLOCALINPUTSETTINGS/ SETTHREADLOCALINPUTSETTINGS を指定して,以前の「スレッドごとに IME 関係の設定を保持」に変更する.変更は永続的である必要はなくて,IME を変更するごく短い間だけで十分なようだ.というわけで先ほどの手順をもう少し改良する.

  1. バックグラウンドスレッドを作る
  2. スレッド内で COM を初期化する (STA 推奨)
  3. 「スレッドごとに IME 関係の設定を保持」が有効でなければ SETTHREADLOCALINPUTSETTINGS を使って有効にする
  4. ITfInputProcessorProfileMgr.ActivateProfile を使用して,使用したい IME を有効化する.
  5. ITfThreadMgr2.ActivateEx を呼んで IME に初期化処理を行わせる.
  6. ITfThreadMgr2.GetFunctionProvider に,対象 IME の CLSID を渡して ITfFunctionProvider を取得
  7. GetFunctionProvider.GetFunction 経由で ITfFnSearchCandidateProvider を取得
  8. 「スレッドごとに IME 関係の設定を保持」を変更していれば,SETTHREADLOCALINPUTSETTINGS で元に戻す
  9. ITfFnSearchCandidateProvider.GetSearchCandidates で任意のクエリを行う

実際には「スレッドごとの IME 設定」を元に戻すのはもう少し手前でも問題ないかもしれない.
また,ユーザーが「アプリウィンドウごとに異なる入力方式を設定する」を有効にしている場合,GETTHREADLOCALINPUTSETTINGS は TRUE を返す.この場合はスレッドごとに異なる IME を有効化できるため何もしなくてよい.

応用

上の罠ポイントさえ回避できれば,複数のバックグラウンドスレッドを用意し,それぞれに別 IME をロードして構わない.つまり,複数の IME に対して同時にクエリを行うことができる.

ITfFnSearchCandidateProvider をサポートしている IME はどれぐらいあるのか?

手元の Windows 8.1 環境でしらべたところ,MS-IME 日本語版と ATOK 2013 はサポートしている.Google 日本語入力 / OSS Mozc は1.12.1599.102 の時点で未サポート.以下,実験したい人のための GUID 一覧.

{
  name: "MS-IME Japanese (Windows 8.1)",
  langid: 0x0411,
  clsid: "03B5835F-F03C-411B-9CE2-AA23E1171E36",
  profile: "A76C93D9-5523-4E90-AAFA-4DB112F9AC76",
},
{
  name: "ATOK 2013",
  langid: 0x0411,
  clsid: "E7602D3E-204C-4662-B92F-78DF0DE5752D",
  profile: "3C4DB511-189A-4168-B6EA-BFD0B4C85615",
},
{
  name: "Google Japanese Input",
  langid: 0x0411,
  clsid: "D5A86FD5-5308-47EA-AD16-9C4EB160EC3C",
  profile "773EB24E-CA1D-4B1B-B420-FA985BB0B80D",
},
{
  name: "OSS Mozc",
  langid: 0x0411,
  clsid: "10A67BC8-22FA-4A59-90DC-2546652C56BF",
  profile: "186F700C-71CF-43FE-A00E-AACB1D9E6D3D",
},
{
  name: "Corvus-skk",
  langid: 0x0411,
  clsid: "EAEA0E29-AA1E-48ef-B2DF-46F4E24C6265",
  profile: "956F14B3-5310-4cef-9651-26710EB72F3A",
},

まとめ

Windows 8.1 環境で ITfFnSearchCandidateProvider を利用すると,MS-IME 日本語版と ATOK 2013 を(同時に)フォールバックエンジンとして使う IME が作成可能.

速度とか所感

MS-IME Japanese は大体 10 msec 以内で返ってくるのでサジェストでも大丈夫かも.ATOK 2013 はクエリが返ってくるまで 100 msec 以上かかっていて,リアルタイムのサジェストに使うのはちょっときついかも.

サンプルコード

次のコードは,現在使用中の IME からのみ ITfFnSearchCandidateProvider を取得することで色々処理を簡略化したもの.起動後に何か入力すると,その入力を ITfFnSearchCandidateProvider.GetSearchCandidates に渡した結果が返ってくる.空行入力で終了.
ビルドには要 NuGet.Package Manager から TSF.SearchCandidateProvider を追加.

PM > Install-Package TSF.SearchCandidateProvider
using System;
using System.Linq;
using TSF;

static class Program {
  static void Main(string[] args) {
    using (var provider = SearchCandidateProvider.FromCurrentProfile().Result) {
      if (provider == null) {
        Console.WriteLine("No provider found.");
        return;
      }
      Console.WriteLine("{0} is found", provider.Profile.Name);
      while (true) {
        var line = Console.ReadLine();
        if (string.IsNullOrEmpty(line)) {
          return;
        }
        var result = provider.GetSearchCandidates(line).Result;
        Console.WriteLine("Elapsed time: {0} msec", result.Elaplsed.TotalMilliseconds);
        result.Candidates.ToList().ForEach(s => Console.WriteLine("  " + s));
        Console.WriteLine();
      }
    }
  }
}

ビルドするのは面倒なのでビルド済みファイルが欲しいという人はこちら.
http://d.hatena.ne.jp/NyaRuRu/files/SearchCandidateProviderSample.zip

TSF.SearchCandidateProvider のコードが見たい人はこちらから.
NyaRuRu/TSF-SearchCandidateProvider · GitHub

類似研究

アレ用の何か
ITfFnReconversion を使う例.

HTML5 Forms の type 指定がデスクトップ IMEに影響するという話

最近やっていた仕事について,一通りリリースが終わって誰でも試せる段階になったので書いてみる.Web アプリ開発者の人や,IME 作成者の人には影響があるかも知れない.ただし Windows デスクトップを相手にしていなければ,ここで読むのをやめてもなんら問題はない.

最近 Chromium と Firefox にパッチを書いて,HTML5 Forms の type 指定が InputScope として TSF ベースの IME (いわゆる Text Input Processors; TIP) やソフトウェアキーボードに通知されるようにした.これは,基本的に Windows 8 上での Internet Explorer 10 の動作に合わせたものである.具体的には,以下の環境で,各種ブラウザが InputScope をサポートするようになった.

  • Microsoft Internet Explorer 10以降 (ただし Windows 8以降)
  • Google Chrome 26以降 (ただし Windows Vista以降)
  • Mozilla Firefox 23以降 (ただし Windows Vista以降)

なぜこれが問題になるのか.それは,一部の InputScope が指定されたとき,(Windows Vista 以降の) MS-IME は自動的に自分自身をオフにするからだ.
モダンなブラウザの実装では,HTML5 Forms input 要素の type 属性に,number, email, tel, time (Firefox 23+ の場合のみ), url のいずれかを指定したときこの「一部の InputScope」に該当する.結果として,対応する InputScope を受け取った MS-IME は自分自身のモードをオフに設定する.

ポイントは,これが IME 自身の判断によって行われるモード変更ということだ.この挙動についてブラウザベンダーを責めるのは難しい.ブラウザは単に対応する InputScope を IME に伝えているだけである.この点で,非標準の CSS に存在する ime-mode とは大きく異なる (ただし,type = password だけは以前からブラウザ自身が IME をオフにしている).

影響を受けないのは,

  • TSF 非対応の IME を使っている場合
  • InputScope を無視する IME を使っている場合 (たとえば ATOK 2013 とそれ以前)
  • Windows XP で上記ブラウザを使っている場合

である.なお,各 InputScope に対する挙動は各 IME にゆだねられているため,今後のアップデートで振る舞いが変化する可能性もある.

まとめ

InputScope に対応したデスクトップブラウザ

  • Microsoft Internet Explorer 10以降 (ただし Windows 8以降)
  • Google Chrome 26以降 (ただし Windows Vista以降)
  • Mozilla Firefox 23以降 (ただし Windows Vista以降)

InputScope に対応した IME

  • Microsoft IME (Windows Vista以降)
  • Mozc / Google 日本語入力 1.11.x 以降 (TSF モードのみ)

HTML5 Forms の input 要素の type

  • number
  • email
  • tel
  • time (Firefox 23+ の場合のみ)
  • url

の組み合わせで,(結果として) IME がオフになる.これは IME が自主的に行っているもので,ブラウザ側から IME のオフを設定しているわけではない.この動作に関して意見がある場合,基本的には IME ベンダーへどうぞということになる.

謝辞

Mozilla Firefox への InputScope 対応パッチについて,Mozilla Japan の中野さんにレビュー等たいへんお世話になりました.この場をお借りしてお礼申し上げます.

余談 0

各ブラウザでの Forms の type と InputScope の対応については Mozc のデザインドキュメントでまとめておいた.詳細についてはそちらを参考にしてほしい.
https://code.google.com/p/mozc/wiki/InputScope#Scope

余談 1

Windows 8 の Immersive モードで,MS-IME 2012 は入力モードをカーソル周辺に表示するようになった.今後,自動モード変更が受け入れられていくためには,このようなモード表示は必須と考えられる.
f:id:NyaRuRu:20130707205612p:plain

余談 2

InputScope に応じて,IME は変換に関する挙動を最適化することができる.たとえば,InputScope が「サーチ」のときに名詞中心のサジェストを行う,といった最適化が考えられる.実際すでに MS-IME 2012 は InputScope が「サーチ」のときに,挙動を変えている.

余談 3

現在 W3C で (主にデスクトップ向けの) IME API が議論されている.その流れの中で Microsoft から inputmode という追加の属性が提案されている.
https://dvcs.w3.org/hg/ime-api/raw-file/tip/proposals/IMEProposal.html#inputmode-attribute
この属性を使うと,ひらがなモードやカタカナモードといった,より日本人になじみが深い入力モードを指定できるようになる.InputScope にはこういったモードが既に存在するため,将来的には「半角カタカナモード」が期待される入力フィールド,といったものが HTML5 で実現可能になる可能性がある.興味がある人が議論に参加して欲しい.

余談 4

Tablet PC の時代に InputScope が設計され,10 年以上たってようやく HTML と InputScope が結びついたわけであるが,ブラウザでの InputScope への取り組み自体は以前から存在する.
たとえば Google Summer of Code 2008 では,Mozilla に対して -moz-input-scope という拡張が試みられた.
https://wiki.mozilla.org/Community:SummerOfCode08:TSF

余談 5

Input 要素の type 指定だが,実際のところモバイル用途の方が需要は高い.理由として,ソフトウェアキーボードのレイアウトが Input 要素の typeによって変化すると便利であること,CJK以外の国でもソフトウェアキーボードが使用されること,が挙げられる.

Fcitx-mozc を試してみた

(4/7 追記) fcitx-mozc の master branch では下記の問題は修正されたようです.Great!


Fcitxのテストのお願い - いくやの斬鉄日記 というのがあったので,軽く動作を見てみました.環境はこんな感じ.

  • Ubuntu 13.04 Final Beta 64-bit
  • VMWare 9.0.2
  • Mozc / fcitx は 2013年4月6日午後8時(日本時間)の時点で,ppa:ikuya-fruitsbasket/fcitx に登録されていたバージョン

f:id:NyaRuRu:20130406212509p:plain
以下,ibus-mozc から後退する部分で気付いたものを列挙してみます.

一部の Ctrl 付きのショートカットが動作しない

  1. Open gedit
  2. Enable Mozc
  3. type "kyouha"
  4. hit Ctrl+H

Expected: "きょう"
Actual: "きょうは"

Mozc (というか Windows の代表的な IME は),F7 キー,F8 キー,F9 キーの代わりにそれぞれ Ctrl+i,Ctrl+o,Ctrl+p という感じのショートカットが用意されています (QWERTY 配列では横に並んでいることに注目).また,IME での入力中は Ctrl+h によってバックスペース相当の動作をすることも可能です.これらが fcitx-mozc では使えないようです.ibus-mozc 1.6.1187.102 では動作するはずです.
Mozc プロトコルでのモディファイアキーの扱いについては commands.proto で解説されて います.Windows 版 Mozc の keyevent_handler_test.cc にも大量にテストケースがあります.

ひらがな/カタカナキーが常にカタカナキーとして振る舞う

(On 109 Japanese keyboard)

  1. Open gedit
  2. Enable Mozc
  3. Type "a"
  4. Hit Shift+Hiragana/Katakana
  5. Type "i"
  6. Hit Hiragana/Katakana
  7. Type "u"

Expected: "あイう"
Actual: "あイウ"

期待される実装方法については ibus-mozc の以下のコードあたりが参考になるかと.
https://code.google.com/p/mozc/source/browse/trunk/src/unix/ibus/key_translator.cc?r=131#57

  {IBUS_Hiragana, mozc::commands::KeyEvent::KANA},
  {IBUS_Hiragana_Katakana, mozc::commands::KeyEvent::KANA},
  {IBUS_Katakana, mozc::commands::KeyEvent::KATAKANA},

https://code.google.com/p/mozc/source/browse/trunk/src/unix/ibus/key_translator.cc?r=124#377

  // Due to historical reasons, many linux ditributions set Hiragana_Katakana
  // key as Hiragana key (which is Katkana key with shift modifier). So, we
  // translate Hiragana_Katanaka key as Hiragana key by mapping table, and
  // Shift + Hiragana_Katakana key as Katakana key by functionally.
  // TODO(nona): Fix process modifier to handle right shift
  if (IsHiraganaKatakanaKeyWithShift(keyval, keycode, modifiers)) {
    modifiers &= ~IBUS_SHIFT_MASK;
    keyval = IBUS_Katakana;
  }

一時的な英数モードからシフトキーで復帰しない

  1. Unset "L_SHIFT" from "Extra key for trigger input method" in the Fcitx global config.
  2. Open gedit
  3. Enable Mozc
  4. Hit key as follows
    1. Down Shift key
    2. Hit a key
    3. Up Shift key
    4. Hit i key
    5. Hit u key
    6. Down Shift key
    7. Up Shift key
    8. Hit a key
    9. Hit i key
    10. Hit u key

Expected: "Aiuあいう"
Actual: "Aiuaiu"

MS-IME のローマ字モードには,Shift キーと共に入力を行うことで一時的に英数モードに入るという機能があるのですが、この入力状態はシフトキーを単独で押すことで解除できます。fcitx-mozc ではこの機能が働かないようです。ibus-mozc 1.6.1187.102 では動作するはずです.

ツールを起動する系のショートカットが動作しない

  1. Open the config tool of Mozc
  2. Enter key customize mode
  3. Add an entry as "Precomposition/F2/Launch word register dialog"
  4. Open gedit
  5. Enable Mozc
  6. Hit F2

Expected: word register dialog is launched
Actual: nothing happens

Mozc (というか Windows の代表的な IME )はショートカットキーで設定ダイアログを起動したり単語登録ダイアログを起動したりできるのですが,fcitx-mozc では機能していないようです.ibus-mozc 1.6.1187.102 では動作するはずです.

gedit で確定取り消しが動作しない

  1. Open gedit
  2. Enable Mozc
  3. Type "kyouha"
  4. Hit enter to commit
  5. Hit Ctrl+BackSpace

Expected: commit action is canceled
Actual: nothing happens

Mozc (というか Windows の代表的な IME )は直前の確定動作を取り消せるのですが,fcitx-mozc では機能していないようです.ibus-mozc 1.6.1187.102 では動作するはずです.

gedit で再変換が動作しない

(On 109 Japanese keyboard)

  1. Open gedit
  2. Type something
  3. Enable Mozc
  4. Select some text
  5. Hit Henkan key

Expected: The selected text is reconverted by Mozc
Actual: nothing happens

Mozc (というか Windows の代表的な IME は)選択した単語を再変換できるのですが,fcitx-mozc では機能していないようです.ibus-mozc 1.6.1187.102 では動作するはずです.


冒頭にも追記したとおり,ここに挙げた問題は全て master branch では修正済みのようです.良かった良かった.

2012年他にやったこと - Mozc 編

Mozc 1.10.1389.102 が公開されたということやっと書ける感じの 2012年やったこと - Mozc 編 - NyaRuRuが地球にいたころ の続き.2012 年にやっていたことの今回公開分.

Support IBus 1.5

Red Hat によって主導され,GNU/Linux 界隈で使われている Input Method Framework であるところの IBus が,メジャーアップデートにあたって設定ファイルの解釈を変えるという決定を下したところ,挙動の変化に気づいたユーザーが IME 側にバグを登録してくることになり,IME 側で設定ファイルを変更することで対処することになったという案件.
平常心平常心と自分に言い聞かせつつ淡々と対処.

Increase opaque buffer size for x32

Mozc が日本語入力を提供しているところの Chromium OS から,x32 でビルドすると static assert に引っかかったからバッファサイズ変更してねとやってきたバグ.こんな身近に x32 を検討中のプロジェクトがあったのかという驚きの気持ちで淡々と対処……したんだけど,その後色々あって Chromium OS の日本語入力は PNaCl でビルドした Mozc が使われることになったため,たぶんこの修正は無意味なはず……

プロセス間通信の AppContainer 対応

Windows 8 で導入された AppContainer サンドボックス下で動作するストアアプリから Mozc を使うにはどうすればよいか考えて実装する,というお仕事.
Mozc のように out-of-process 型の IME にとって,サンドボックスは天敵.実際 Windows 8 のベータテストの段階から色々実験を行っていて,AppContainer から外部プロセスへは単純に名前付きパイプで通信できないというのは分かっていた……んだけど同時にどうしようもなく過ぎていく日々.もちろん胃は痛い.マルチプロセス設計を見直すというのは,Mozc のコード規模では既に悪夢と言ってよく,ストアアプリ対応を諦めるという選択までもがかなりの現実味を持つという状況.ほんと胃が痛かった日々.
結局 AppContainer 導入による Windows 開発への影響 - NyaRuRuが地球にいたころ で紹介したように,名前付きパイプの DACL にエントリを追加すればよいという情報を発見しほっと胸をなで下ろしたのが 8 月頃.
ちなみにこの手法,API の説明を読むに,out-of-process で動作するアクセシビリティ系常駐ソフトへの配慮から残された裏口のようにも読める.変化と互換性の間で綱渡りをする Microsoft らしい配慮がなければ,今でも没入型 UI で Mozc は動作しないままだったかもしれない.
今回公開されたコードでは,以下のうち "(A;;GA;;;AC)" を足している部分がそれ.
https://code.google.com/p/mozc/source/browse/trunk/src/base/win_sandbox.cc?r=131#247

case WinSandbox::kSharablePipe:
  // Sharable Named Pipe:
  // - Deny Remote Acccess
  // - Allow general access to LocalSystem
  // - Allow general access to Built-in Administorators
  // - Allow general access to the current user
  // - Allow general access to ALL APPLICATION PACKAGES
  // - Allow read/write access to low integrity
  ssdl += L"D:(D;;GA;;;NU)(A;;GA;;;SY)(A;;GA;;;BA)";
  if (SystemUtil::IsWindows8OrLater()) {
    ssdl += L"(A;;GA;;;AC)";
  }
  ssdl += allow_user;
  if (SystemUtil::IsVistaOrLater()) {
    ssdl += allow_rw_low_integrity;
  }
  break;

Mozc を Windows 8 対応させるにあたって,最も重要だったのはこの一行だといっても過言ではない.

TSF 再対応

Windows 8 の没入型 UI では TSF ベースの IME (正確には Text Input Processor; TIP) 以外は使えないというのは割と知られた話.しかし実際の ところ迫害はこれにとどまらず,デスクトップモードでも IMM32 ベースの IME には次のような制限がある.

  • 言語バー API を使用して,通知領域にアイコンを表示できない
  • 言語設定から IME の設定画面を開けない

正直 Windows 8 では IMM32 ベースの IME は現実的とは言えないんじゃなかろうか.
このような理由もあって,Mozc を TSF に再対応させるのは割と早いうちから決心していた.もっとも,プロセス間通信の問題の方がより頭が痛かったので TSF の問題は割と放置気味だった.
プロセス間通信の問題が片付いて,Chromium の TSF 対応も一段落しところで,一人で淡々と TSF 対応を開始.それも無事 12 月中にすべてリリース.短期間に大量のコードレビューをこなしてくれた同僚に感謝.
こうして,IMM32/TSF との関わりがまた増えた.

  1. 学生時代に C# で TSF ベースの IME を途中まで作る
  2. 学生時代に Windows Vista 向け TSF 対応記事を書いたり CEDEC で講演したり
  3. 入社後,TSF で書かれていた初代 Mozc クライアントの開発を手伝う
  4. Windows XP 環境での CUAS に絶望し,IMM32 で Mozc クライアントをゼロから書き直す
  5. Chromium の TSF 対応を指揮
  6. Windows 8 向けに Mozc クライアントを TSF で書き直す (New!)

今回書き散らかしたコードはこのあたりに見ることができる.
https://code.google.com/p/mozc/source/browse/trunk/src/#src%2Fwin32%2Ftip

vcbuild から Ninja への移行

2012 年末,TSF 対応コードを一通りリリースし終わった後,同僚たちが休暇モードに入るのを横目に始めた年末ビルドパイプライン大掃除.
Mozc の Windows ビルドは,gyp のおかげで柔軟性が高く,ターゲットとなる Visual C++ のバージョンを変更するのは容易である.実際手元の開発では Visual C++ 2012 + Visual Assist X で快適開発ということが割と簡単にできている.一方,ビルドサーバーはいまだに Visual C++ 2008 を使っていた.これに関して最近以下のような懸念点があった.

  • Chromium がデフォルトコンパイラを Visual C++ 2008 から Visual C++ 2010 に移行した
  • Visual C++ 2010 になると,nullptr や auto が使えるようになる

そんなわけで,Mozc のデフォルトコンパイラを Visual C++ 2008 から Visual C++ 2010 に変更しようと思い立つ.
この変更で問題になるのは,従来コマンドラインからのビルドに使っていた vcbuild.exe が使えなくなり,.NET ベースの msbuild.exe に移行しなければならないことである.密閉型のビルドサーバーに .NET ベースの複雑な依存関係を持ち込むのはうれしくない.そこで,最近 Chromium でも併用されている ninja を使ってみることにした.
Ninja は,当時 Chromium チーム に在籍していた Evan Martin による make 代替ツールで,gyp や CMake のようなツールから自動生成されたビルド設定を読み込むことを前提に,とにかく高速に動作することを目指している.Ninja は Chromium 開発で多用されているだけでなく,最近は LLVM のような CMake 利用プロジェクトにもファンを広げているようだ.今回 vcbuild.exe ではなく Ninja を採用したもう一つの理由は,社内で勢いを持ちつつあるツールにはなるべく乗っかっておくという経験則もある.困ったときに聞きやすいし,自分の経験が同僚の役に立つこともある.
もっとも,Chromium 付随プロジェクトにありがちな話として,Chromium が必要になった部分だけ実装され,他は未実装というのは今回も同じ.Mozc を gyp + Ninja + Visual C++ 2010 で快適にビルドするには,gyp の Ninja 向けジェネレータ側にいくつか追加実装を行う必要があった.12 月頃せっせとパッチをアップストリームしている姿を以下に見ることができる.

移行は無事予定していた期間で終わり,現在の Mozc のビルドサーバーは gyp + Ninja + Visual C++ 2010 で動いている.

その名は「新しい (Windows) UI の…」

発端

マイクロソフト社がIEの舵取りに迷っている。同社は先週、Windows 8の“Windows ストアアプリ”として動作する「Internet Explorer 10」でFlashコンテンツを表示する際の方針を変更すると発表した。この方針転換が意味することを理解するためには、Windows 8が発売される前までさかのぼる必要がある。

【#モリトーク】第50話:IEのジレンマ - 窓の杜

という記事を読んだのだけど,どうも用語の使い方が危なっかしい.枝葉の部分ならともかく記事の論点に直結する部分だけに余計に気になる.というわけでちょっとだけ書いてみたのが以下.

Windows 8 向けブラウザの 3 分類

Windows 8 でウェブブラウザというと,大きく 3 種類に分けられる.

  1. いわゆる Windows ストアアプリであって,標準ブラウザコンポーネントを利用するもの
  2. いわゆるデスクトップアプリケーションとして動作するブラウザ
  3. Windows ストアアプリではないものの,Windows ストアアプリと同様の没入型 UI で動作するブラウザ

単独製品としての「Internet Explorer 10」が該当するのは 2 と 3 である.この厳密な定義に従えば,元記事にあった,

“Windows ストアアプリ”として動作する「Internet Explorer 10

なるものは,実は存在しない.元記事に登場する Google Chrome も同様で,“Windows ストアアプリ”として動作する Google Chrome というものは存在しない.Chrome もタイプ 2 とタイプ 3 で動作する.
なぜこの区別が重要かというと,タイプ 3 のブラウザは,没入型 UI で動作するという点ではタイプ 1 に近いものの,開発者視点ではむしろタイプ 2 のデスクトップアプリケーションとしてのブラウザに近いからだ.タイプ 1 ブラウザと対照的な,タイプ 3 のブラウザの特徴を挙げてみよう.

  • AppContainer サンドボックスが強制されず,Integrity Level Medium で起動される
  • WinRT に縛られず,デスクトップアプリケーションとほぼ同等の Win32 API にアクセスできる
  • Windows ストアを経由せずにインストールできる

このように,タイプ 3 ブラウザは,実際にはデスクトップブラウザと同じ技術で作られている.プラグイン的な実行時ライブラリの使用や,JIT コンパイルのような実行時コード生成についても特に技術的な制約はない.
もう一点強調しておくと,Windows 8 で没入型 UI が導入されるにあたって,こんな動作モードが許されたのはブラウザだけである.この動作モードが許されるのはデフォルトブラウザに限定され,その他のブラウザには許されないというところからも,今回の措置が例外的なものであることが透けて見える.

参考資料

Windows 8 のサードパーティー製ブラウザ事情については,Microsoft がブラウザ開発者向けに公開している Developing a new experience enabled desktop browser という資料に詳しい.なかでは,Windows 8 で動作するタイプ 3 のブラウザを開発する方法について解説されている.プロセス分離型ブラウザについても言及されているあたり個人的には好感度が高い.
ちなみにこの資料で,タイプ 1, 2, 3 ブラウザはそれぞれ以下のように呼ばれている.

  1. Windows Store app
  2. Desktop browsers.
  3. New experience enabled desktop browser

3 については,"New experience enabled" のあたりに没入型 UI を,"desktop browser" のあたりに API 的な側面を感じるとよいのではなかろうか.

きみの名は……

さて,以上の話を理解してから見る次のツイートは味わい深い.



背景事情が分かってしまえば簡単な話である.つまり,開発者向け資料で New experience enabled desktop browser と呼ばれる動作モードの IE が,ユーザー向けには "新しい (Windows) UI の IE"、"Windows 8 スタイルの IE" と紹介されているわけだ.まあ他に呼びようなかったのやもしれず.

Dell の個人向け商品で領収書をもらう方法 (または,まともなタッチ対応ディスプレイを経費で買う方法)

まとめ

Dell の 10 点タッチ外付け 23 インチディスプレイ S2340T は,個人向けサイトにしか載っていないけど,経費購入に必要な領収書も用意してもらえるので必要な人は迷わず買うと良いよ.

S2340T

Windows 8 に起因するタッチ対応案件は第一弾が一段落したころでしょうか.「Windows 7 のときに済ませた」という人から,「まだ対応していない」,「テストすらしていない」,「積み残しタスクがある」,という方まで,色々いらっしゃることかと思います.
そんななか,まだタッチ対応アプリケーションの開発体制を整えていなくて機材を探しているという場合におすすめなのが Dell の 23 インチディスプレイ S2340T.この製品,Full HD (1,920 x 1,080),10 点タッチに対応しつつ,59,980 円という Windows 8 前のタッチ対応外付けディスクプレイからは考えられない低価格で.半年前に発表されるやいなや注文が積み上がり,一時期は通常納期 + 14 週間というすさまじいバックオーダーが生じていました.それが最近は需給が釣り合ってきたらしく,ついに通常納期まで改善したようなのでおすすめしてみる次第であります.


(参考) 製品紹介記事:
screenshot screenshot screenshot
さて,この製品を経費で買おう思ったあなたに一点アドバイス.S2340T は Dell の個人向けサイト にのみ掲載されており,法人向けサイトには掲載されていません.これで困るのが領収書.通常の注文フローだと会社名・事業者名宛ての領収書が作れないっぽく見えるため,経費で買おう企んでいた人はそこで諦めてしまいかねません.私の場合,諦めきれなかったので Dell のサポートの人に聞いてみたのですが,実は個人向け製品でも領収書は作れるとのこと.

Q 領収書を発行可能ですか?
A 領収書は、現金払いでのご注文の場合原則”お振込票の控え”等をもって代えさせて頂いております。現金以外のお支払方法ご利用の場合、お客様よりご希望のあった場合のみ発行しております。ご希望の場合はこちらのフォームよりご連絡いただけますようお願い申し上げます。
※個人のお客様で現金前払いのお客様には弊社にて入金確認後「入金確認書兼領収書」を郵送させていただいておりますのでそちらを領収書としてご利用いただけます。
※領収日は現金前振込の場合はご入金の確認がとれた日・クレジットカードの場合はカード会社より引き落としを承認された日になります。(領収日の変更は承ることが出来ません。)
※領収書のお届けは納品後となり、お時間がかかることもございます。また商品には同梱できませんので、予めご了承ください。

よくあるご質問

流れとしては,以下のようになるようです.
1. 個人向けページから購入する.
2. 領収書発行フォーム から領収書を請求する.

というわけで,S2340T の納期も改善してきたタイミングでの,タッチ対応 Windows アプリケーション / Web アプリ開発者向け情報でしたー